会社設立から株式の売買の具体例
<ステップ1>
甲さんが現金100万円でA社を設立しました。
A社・・・ 現金 / 資本金 100万円
<ステップ2>
A社は100万円で100%子会社のB社を設立しました。
A社・・・ B社株式 / 現金 100万円
B社・・・ 現金 / 資本金 100万円
<ステップ3>
B社は甲さんから親会社のA社株式を100万円で購入しました。
B社・・・ A社株式 / 現金 100万円
結果、甲さんの手元に現金100万円が戻ってきました。
またA社とB社は相互に100%親子関係になっています。
A社
100% ↓↑ 100%
B社
上記具体例における会社法の問題
ステップ1~3の取引のうち、会社法により一部規制されています。
スッテプ1とステップ2は問題ありません。
ただステップ3は、子会社であるB社が親会社のA社株式を購入しています。
会社法上、子会社が親会社の株式を取得することは、原則禁止されています。
例外として認められるのは、合併等の組織再編時のみです。(会社法135条1項2項)
そのためステップ3のように子会社B社が親会社株式を取得してしまった場合は相当の時期にA社株式を処分しなければなりません。(会社法135条3項)
想定される場面としては、生前に甲さんが相続税などの納税資金等を確保するためA社株式を売却しようと考えた場合です。
A社にA社株式を売却すると自己株式のため含み益部分について甲さんは、みなし配当課税されます。
みなし配当は、総合課税のため最大45%の所得税率です。
そこで総合課税を回避するため子会社のB社にA社株式を売却すると、どうなるか?
この場合は、含み益部分について譲渡所得となり15%の所得税率です。
そのため、みなし配当よりも税務上有利となることがあります。
だからといってB社にA社株式を売却すると会社法の規制対象になります。
処分する「相当の時期」については、事業年度末まで等の明確な期限がありませんが株価の上昇等を考慮した遅すぎず売り急がない相当な時期までに処分することになると解釈されています。
また処分しない場合はB社の役員等に100万円以下の過料が科されます(会社法976条10号)
その他、議決権にも注意が必要です。
B社がA社株式を保有している期間に開催されるA社の株主総会におけるB社の議決権は、0となります。
これは「株式相互保有の制限」とよばれるものです。(会社法308条1項括弧書)
B社は、A社に25%以上株式を保有されているためA社の支配下にありA社の意思を反映した議決権を行使されると株主間に不公平が生じるためです。
株価評価は、議決権割合により原則的評価方法か特例的評価方法を判定します。
そのため評価方法を判定する議決権についても「株主相互保有の制限」をうけるB社の議決権は0となるため注意が必要です。
評価方法が異なると売買する際に高額譲渡、低額譲渡などに該当する可能性が高まります。
また持分割合を25%未満にして株式相互保有を外すことも検討する場合もあるかと思います。
このようにグループ会社間で株式を移転させる場合は、法律関係が複雑になるため専門家と相談しながら進めることが重要かと思われます。
・2018年10月27日 公開