欠損金の繰越控除と繰戻還付について
■欠損金の活用方法について(その1)
欠損金とは、「税務上の赤字」のことで、決算書の「当期損失額」とは異なります。
欠損金の税務上の活用方法には2種類あります。
1つは「欠損金の繰越控除」で、ご存知の方も多いのではないでしょうか。現在の規定では欠損金を9年間(注1)にわたって繰り越すことが可能で、
その間に所得(税務上の黒字)が発生したら、欠損金と相殺できる、というものです。
中小企業者等であれば、発生した所得金額が相殺の対象になりますが、中小企業者等以外の法人は発生した65%が相殺の対象となりますので、ご留意ください。
欠損金が生じた事業年度(以下、この事業年度を「欠損事業年度」といいます。)において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出する必要があります。
欠損事業年度において青色申告書である確定申告書を提出していれば、その後の事業年度について提出した確定申告書が白色申告書であっても、この繰越控除の規定が適用されます。
また、繰越欠損金は、最も古い事業年度において生じたものから順次所得と相殺します。
(注1)各事業年度において生じた欠損金の繰越期間
(欠損事業年度) (繰越期間)
・平成13年4月1日前に開始した各事業年度 ・・・ 5年
・平成13年4月1日から平成20年3月31日・・・ 7年
・平成20年4月1日から平成29年3月31日・・・ 9年
・平成29年4月1日以後に開始する各事業年度・・・ 10年
※税制改正で延長されます。
■欠損金の活用方法について(その2)
そして、もう1つが「欠損金の繰戻還付」制度です。「前期に所得が出ていて税金を払っている場合において、当期が欠損だったときは、当期の欠損分を限度として、前期に払った税金が還付される。」という制度です。
原則的には停止中の規定ですが、中小企業者等に限り適用可能です。
還付金額は、次の計算式により求めることができます。
還付金額=還付所得事業年度(注2)の法人税額×欠損事業年度の欠損金額(注3)÷還付所得事業年度の所得金額
例えば、前期(還付所得事業年度)の所得が200万円で、法人税額を30万円払った場合において、当期(欠損事業年度)の欠損金が100万円だったときは、次のように還付金額を求めます。
30万円×100万円÷200万円=15万円
(注2)
還付所得事業年度とは、欠損事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度をいいます。
(注3)
法人が還付金額の計算の基礎として還付請求書に記載した金額が限度となります。また、欠損事業年度の欠損金額が還付所得事業年度の所得金額より多くても、還付所得事業年度の所得金額が限度になります。
■繰越欠損金を上手に使って節税
欠損金の税務上の活用方法2種類について説明させていただきました。では、「欠損金の繰越控除」と「欠損金の繰戻還付」のどちらを選択したら良いでしょう?
資金繰り重視なら断然「繰戻還付」でしょう。すぐに税金が戻ってくるわけですから、利用しない手はないかと思います。「繰越控除」の場合は、メリットを受けるのは1年以上先になってしまいます。
ただ、繰戻還付は繰越控除に比べて要件が厳しく、下記の適用要件を満たすことが必要です。
1.中小企業者等(資本金又は出資金の額が1億円以下の普通法人等)であること(個人事業者は含みません)。
2.前期(税金を払った年度)も当期(欠損事業年度)も連続して青色申告書である確定申告書を提出していること。
3.当期(欠損事業年度)の確定申告書を青色申告により期限内に申告していること。
4.確定申告書と同時に欠損金の繰戻還付請求書を提出していること。
以前は、「還付請求したら調査が来る」という定説(?)まであったほどで、それが理由で還付請求をためらうケースもありましたが、昨今の不況下でそうも言っていられない会社もたくさん出てきたことでしょう。
不況下での経済活性化対策のひとつでもあるとのことです。正しい決算で、正しい申告をしていれば、調査も恐れることはありませんので、躊躇せずにどんどん活用しましょう。
・2016年10月24日 公開