平成29年度税制改正により「中小企業経営強化税制」が創設されたました。
法人税・所得税について即時償却か取得価額の10%の税額控除が選択適用できますが、今回はそれに付随する固定資産税の特例について記載いたします。
固定資産税が3年間半分に
経営力向上計画の認定を受けた事業者は計画実行のための支援措置(税制措置、金融支援)を受けることができます。
税制措置…認定計画に基づき取得した一定の設備について、固定資産税や法人税等の特例措置を受けることができます。
金融支援…政策金融機関の低利融資、民間金融機関の融資に対する信用保証、債務保証等の資金調達に関する支援を受けることができます。
○制度の概要
中小企業者が適用期間内に、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上設備に基づき一定の設備を取得した場合、固定資産税が3年間にわたって2分の1に軽減されます。
○適用期間
平成29年4月1日から平成31年3月31日までの期間
一定の設備(経営力向上設備等の要件)
対象設備のうち次の要件を満たすもの
①一定期間内に販売された新品モデル(最新モデルでなくても良い)
②経営力向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度等)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備
なお、この要件について工業会等から証明書を取得する必要があります。
手続きは下記の順番となります。
①工業会等による証明書や経済産業局による投資利益率に関する確認書を取得。
②当該設備を利用し生産性を上げるための「経営力向上計画」を策定し、各事業分野の担当省庁から認定を受ける。
③認定を受けた計画に基づき、当該設備を取得。
法人税等の即時償却の適用を受ける場合に類似していますね。詳しくは後述します。
この適用を受けられれば税制面で大きな優遇を受けられますが資産は限定的であり要件もあります。購入すればいいというものでもないのです。
対象設備
次は対象設備についてです。
機械装置
全て 最低160万円以上 販売開始時期は10年以内のものに限る
工具
測定工具・検査工具 最低30万円以上 販売開始時期は5年以内のものに限る
器具備品
全て 最低30万円以上 販売開始時期は6年以内のものに限る
建物附属設備
全て 最低60万円以上 販売開始時期は14年以内のものに限る
※法人税等ではソフトウェアも対象資産でしたが固定資産税の計算ではそもそも無形固定資産は対象資産ではありません。
この固定資産税の特例ではいくつか要件があるので注意が必要です。
対象地域・対象業種について
平成29年度税制改正により新たに対象に追加された設備(測定工具及び検査工具・器具備品・建物附属設備)については、一部の地域において対象業種が限定されます。但し、機械装置については全国・全業種が対象となっています。
測定工具及び検査工具・器具備品・建物附属設備の設備の所在地(本店ではありません。)が次の7都府県に該当する場合には地域別の業種リストを確認しなければいけません。
ちなみに7都府県は埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府です。
対象業種の判断は、日本標準産業分類の中分類に基づいて行われます。
経営力向上計画の「事業分野(中分類)」が複数にまたがる場合、その中に対象業種が含まれている場合には特例の対象となります。
また、その設備が明らかに非対象業種の用にのみ供される場合には対象外となります。
ここでは記載しませんが経済産業局のホームページで各都府県での対象業種が載っていますので詳しくはこちらでご確認ください。
手続・取得時期等について
摘要手続きは法人税等の即時償却の適用を受ける手順と同様ですが
①設備メーカー等に証明書の発行を依頼
②設備メーカー等が工業会等へ発行申請
③証明書が工業会等から発行され
④証明書を設備メーカー等から入手ここまでは業者さんとのやり取りになります。
⑤経済産業局へ計画を申請
⑥経済産業局から計画の認定を受けてこれで証明書と認定書の書類が揃います。
⑦設備取得
⑧税務申告
これが原則的な流れとなります。
即時償却・税額控除を受ける場合にはこれらの書類を申告書等に添付して所轄税務署長へ申告します。固定資産税の特例の場合も同様です。
なお、設備の取得時期につきましては経営力向上計画の認定後に取得することが原則ですが例外もあります。
例外
設備を取得した後に経営力向上設備を申請する場合には設備取得日から60日以内に経営力向上計画が受理される必要があります。
この場合、税制の適用を受けるためには固定資産税の賦課期日が毎年1月1日であることから遅くともその設備を取得した年の12月31日までに認定を受ける必要があります。
ということは申請はもっと早くする必要がありますね。
もし12月31日を超えて認定を受けた場合、減税の期間が2年となりますので注意しましょう。
金額によって固定資産税も多額となるので是非受けたい特例です。即時償却・税額控除のいずれかとこの固定資産税の特例は併用することになるかと思われますので失念しないようご注意ください。
タワーマンション以外の不動産節税
日本にいる居住者が、海外の不動産で家賃収入があると、日本の税法での所得税の申告が必要になります。
不動産所得の主な必要経費の一つに建物の減価償却費があります。
海外不動産投資の節税には、この減価償却費が大きな要素になります。
アメリカやイギリスの住宅市場は中古物件が主流で、中古物件の価格が下がりにくく安定しています。
すでに日本の税務上の耐用年数を過ぎた物件を相当の金額で購入すれば、初年度から多額の減価償却費を計上できます。すると海外不動産所得が赤字になります、その赤字と日本での他の所得と相殺して税金を安くします。
<事例> 築22年の木造コンドミニアムを2千万円(建物価格)で購入した場合
すでに日本の税制での耐用年数に達していますので、この場合の中古建物の耐用年数は4年になります。
初年度に計上できる減価償却費 500万円
家賃収入が年間100万円としたら、減価償却費だけで400万円の赤字になります。その他の経費もあるので、赤字はもっと多くなります。そしてこの損失を他の所得と相殺して所得税を安くします。
税務上は多額に償却して税務上の建物価格は下がりますが、海外の中古住宅は価格が安定していますので、実際の販売価格はあまり下がりません。実際の資産価値は下がらないのに税務上の価値だけを下げていく手法です。
税務上の価値と実際の価値の差額を使う方法は、タワーマンションの節税と共通する点ですね。税法上の価値と実際の価値が大きく乖離した時に、税金のマジックが生まれることが多いようです。
この海外中古不動産の件も会計検査院が問題にしていましたので、タワーマンションと同様に改正案に盛り込まれるかもしれませんね。
この12月に発表される来年度の税制改正大綱で、明らかになってくると思います。
タワーマンションの相続税節税とは
もう、ご存じの方も多いと思いますが、ちょっとおさらいしておきましょう。
タワーマンションの節税は、相続税評価額と実際の価格の差が大きくなることを利用します。
===マンションの相続税評価額===
<土地・・・路線価×専有持分>
マンション1棟の敷地面積を各持分で按分しますので、部屋の面積が同じなら高層階も、低層階も同じ評価額になります。また1区画の敷地の上に多くの戸数ができますので、1区画1個の建物の建つ戸建よりも評価面積も小さくなります。
<建物・・・固定資産税評価額>
建物はさらにわかりやすく、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。相続税においても1㎡あたりの評価額は高層階も低層階も同じになります。
○ タワーマンション節税のポイント
(1) タワーマンションの高層階は預貯金より相続税での評価が下がるのに、換金性が高い
人気物件であることが多く、賃貸でも売買でも流動性が高い
(2) 土地の評価対象面積が少ないので相続税評価額も小さくなる敷地面積に対して総戸数が多いため
(3) 高層階でも、低層階と同じ評価額になる。
一棟全体で価格が決まり、各部屋は、単純に持分面積で按分されるため
このように、タワーマンションの高層階の部屋は、実際の価値と相続税評価額の差異が大きくなります。この差異を利用した節税方法が問題になっていました。
<事例> 40階建てマンションの販売価格が下記のタワーマンションがあるとします
・最上階A室 1億2千万円 ・21階B室9000万 ・1階C室5000万 間取りは全て同じです。
1室あたりの相続税評価額は、約4千万円ほどになるかと思います。現行法では3室とも同額の4000万円になります。
Aさんの場合
財産・・預金2億円 相続人・・奥さんなし、子供3人
① Aさんが財産を預金でそのまま持っていた場合
相続税評価額 預金 2億円
相続税額 2,460万円になります。
② Aさんが、最上階A室を1億2千万円で購入した場合
相続税評価額 預金 8千万円 マンション 4千万
相続税は、 930万円になります。
税金の差額は 1,500万円にもなりました。
もし貸家にしたり、小規模宅地の適用を受けることができれば、さらに評価額は下がります。
しかも、相続税での評価額が下がっただけで、実際の価格は、あまり下がりませんので、相続した後にマンションを売却すれば、②の場合も2億円近く相続したことになります。それなのに相続税には大きな差がでます。
この節税方法が、租税回避行為として否認された事例がありますが、それは、あまりにも短期間で購入、相続、売却をした特殊なケースでしたので、一応、まだ、このスキームは利用されています。
今回の改正で、高層階の評価額が、実際の価格に近づくように改正されるため、上記の節税方法に一定の規制がかかるでしょう。
改正の適用年によっては、かけこみ需要があるかもしれません。
タワーマンション問題と固定資産税
マンションの高層階と低層階では、新築販売時の価格は高層階の部屋の方が高額だし中古でも高層階の方が高く売れますよね。
でも、固定資産税は高層階も低層階も同額です。単純に広さ(持分面積)で計算されるだけです。
つまり税金の計算では、高層階も低層階も同じ価値として評価されていました。
どうしてこんなことがおこるのでしょうか?
固定資産税は、その年の1月1日の所有者に課税される地方税です。
基本的には固定資産税評価額に標準税率1.4%をかけた金額です。それに各種軽減税率適用等があります。
土地の固定資産税評価額は、毎年、国が発表している公示地価の7割を目安に決められています。
建物の固定資産税評価額は、建築価格から時価を算定して決められています。
現行、マンションなどの集合住宅の固定資産税は、まずはマンション一棟全体で、その敷地と建物の固定資産税を算出します。
そして、各所有者は、マンション一棟全体の課税金額を、自部屋の専有持分で按分された金額を課税されます。
つまり、40階の部屋も1階の部屋も1㎡あたりの税額は同じです。
南向き、北向きとかは一切考慮されません。ただ面積だけの按分です。
税金は、その価値で決定されるべきなのに、これでは、不公平ですよね。
そこで今回、この不公平を是正するために、国は改正に向けて検討していることが発表されました。
20階建て以上のマンションを対象に、固定資産税を中層階はいままでどおり、高層階を高くして、低層階を安くする方向で検討されているようです。
マンション全体の税額は変更しないようです。
償却資産税の税額について
償却資産税はいくらかかるのでしょう?
毎年1月1日時点で所有している償却資産について、税務会計上の償却方法にかかわらず、旧定率法により減価償却します。
旧定率法なので取得価額の95%までしか償却できません。
また償却資産を取得した初年度は月割りではなく半年分を償却します。
具体的には以下の通り、旧定率法の償却率を使い評価額を計算します。
取得した年 取得価額×(1-償却率/2)
翌年以降 前年度評価額×(1-償却率)
それぞれの資産について上記計算方法により算出した評価額の合計がその年の課税標準額となり、その課税標準額の1.4%がその年分の償却資産税額となります。
ただし課税標準額が150万円未満の場合には償却資産税は課税されません。
※太陽光発電設備など課税標準の特例が設けられている資産もあります。
実際に評価額と税額を計算してみます。 償却資産税を課税される事業者が、今年の1月2日から来年1月1日までの間に20万円の新品パソコン(法定耐用年数4年:償却率0.438)を取得したとします。 平成29年度 → 評価額 156,200円 税額 2,186円 平成30年度 → 評価額 87,784円 税額 1,228円 平成31年度 → 評価額 49,334円 税額 690円 平成32年度 → 評価額 27,725円 税額 388円 平成33年度 → 評価額 15,581円 税額 218円 平成34年度以降 → 評価額 10,000円 税額 140円 取得価額から見るとそこまで大きな税額ではないものの、所有している限り税金がかかり続けるということがわかります。 償却資産の申告は毎年1月末期限となっており、年明けの忙しさからついおざなりになりがちです。 この時期に一度、すでに所有していない資産が申告されていないかなど償却資産の明細書を見直ししてみてはいかがでしょうか。
償却資産税の課税対象となる資産
償却資産税の対象となる資産は、土地・家屋以外の事業の用に供することができる資産で税務会計上、減価償却の対象となるものです。
自動車税や軽自動車税の課税対象になる車両やソフトウェア等の無形固定資産、開業費等の繰延資産、非減価償却資産となる書画・骨董は課税対象外となります。
ただし減価償却の対象となる資産であっても、所有権移転外ファイナンスリース取引にあたるリース資産は課税対象外となります。
ここで前回記事にありました償却資産税の申告に際しての注意点です。
取得価額が30万円未満の資産については特例として全額経費処理できると前回ご説明いたしましたが、償却資産税にはこの特例はありません。
つまり少額減価償却資産として全額経費処理し、固定資産台帳には載っていない資産についても、償却資産として申告する必要があります。
また一方、取得価額が20万円未満の資産については3年間で均等償却する一括償却という償却方法もあります。
紛らわしいですがこの償却方法を選択した資産については、償却資産の対象外となります。
10万円以上20万円未満の資産を取得した場合は償却資産税の負担も考慮し、少額資産の特例で全額経費とするか3年均等償却とするか判断してもいいかもしれません。
平成28年度減価償却に関する改正
■改正の内容■
改正前までの付属設備等の減価償却の方法は下記の通り選定することが出来ました。
・付属設備等
定額法又は定率法(法定償却は、個人は定額法で法人は定率法)
・鉱業用減価償却資産にかかる付属設備等
定額法、定率表又は生産高比例法(法定償却は、個人は定額法、法人は生産高比例法)
そして改正により、平成28年4月1日以後に取得されたものについては下記の方法で償却することとなりました。
・付属設備等 …定額法
・鉱業用減価償却資産にかかる付属設備等 …定額法又は生産高比例法
なお、平成28年4月1日以後に取得された鉱業用減価償却資産のうち建物、付属設備等についての償却方法の選定についても下記のとおり行うこととなりました。
・確定申告書等の提出期限までに「減価償却資産の償却方法の届出」を納税地の所轄税務署長に届け出ること。
・以前から減価償却方法を定額法で選定している場合で、
a.平成28年4月1日以後に取得した資産について、償却方法の届出をしていない場合
b.平成28年3月31日以前に上記a.の資産の取得したと仮定した場合、届出どおりにあてはめると定額法にあてはまる場合
には、定額法を選定したものとみなされます。
■資本的支出の取得価額の特例■
今回の改正がある以前から、資本的支出の取得価額の特例として下記の特例がありました。
イ.定率法を採用している既存の減価償却資産に資本的支出を前事業年度に行った場合、事業年度開始の時に、旧減価償却資産の帳簿価額と新たに資本的支出した減価償却資産(以下、追加償却資産という)の帳簿価額との合計額を一の減価償却資産を新たに取得したものとすることができる。
ロ.定率法を採用している既存の減価償却資産に資本的支出を前事業年度に行った場合で、上記イ.の適用を受けないときは、その事業年度開始の時において、その適用を受けない追加償却資産を一の減価償却資産として新たに取得することができる。
そして今回の改正に絡んで、
a.既存の減価償却資産について定率法を選定していた場合
b.平成28年3月31日の属する事業年度の翌事業年度開始の時に新たに取得したものとされる場合
には、平成28年3月31日以前に取得された資産に該当するものとして定率法により償却することとされました。